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海外向けの動画制作

TOHOKU REVIVALの制作

こんにちは

映像監督の速水です。

2023年度は素晴らしいご縁で内閣府の動画制作に演出家として参加させていただきました。動画はそもそも国内のみならず世界各国へ発信することが決定されていました。日本的なニュアンスも大切にしつつ、海外の方にも見ていただける心を掴むもの・・・クライアントからは東北の復興というとても壮大なテーマを投げかけられ、一体どんな動画を作るべきか、何をうったえかけていくものなのか?

本質を見極めることにとても時間を費やしました。

海外での動画制作の経験は19か20からなので肌に染み付いている。日本と海外の大きな違いとはなんともロジカルに説明し難いのですが脳科学的に言えば右脳と左脳のバランス感覚です。日本語という言語(母音)がそもそも左脳過多であるという研究がある。物事をロジカルに理解したい。しかしそれでは人の心は動かない。

欲しいものはロジックではなく熱量!なのだ。

皆さんもテレビやネット番組で感じたことはないだろうか?日本の討論番組は基本的に敵と味方、赤組白組に分かれてお互いを叩き合う論破合戦。一方海外の討論番組は一見ロジカルに組まれているようで討論している内容についての自己意識が高い。自分ごととして熱を込めて討論するものが多い。やはり熱量、つまり主観が大切なわけです。一方日本では冷静沈着な客観性が求められ討論で声を荒げたほうが負け、といった不思議な暗号のようなしきたりに近いものがあります。

海外へ訴えかけるツール

映像的に表現する場合にはやはり立体感が必要になります。これは撮影監督の感性、被写体との距離感、子供のような私観が必要です。

感情的な表現で言えば、時間をかけて、そして一歩ふみこまないといけません。昔大手の日本のテレビ局で仕事をしていたころ、海外の感性を発揮して欲しいと要望を受けたのですが、アーティストの特番というのでアーティストに近づく必要がありました。そして特集のインタビューは90分から2時間は最低欲しいと要望しました。それを何回か撮影してインタビュー素材が4時間も5時間もあるような状況を想像しました。何せ海外ではそれが至極当たり前だからです。ところが日本の場合はほとんどの場合アーティストやテレンとは(当時)神様扱いでディレクターの分際が直接会話できる機会は撮影日本番のみ。事前の打ち合わせに顔を出すことなのほぼない。インタビューも30分以内にしてほしいなどとにかく様々なハードルが待っていてアーティストの熱量に迫ることは非常に難しかった。それが日本と世界の大きな違いの一つかもしれない。感情という熱量に近づけないのだ。

そして、なんといってもストーリーテリングです。

視聴者が共感するポイントには熱量が不可欠。そして被写体による自己犠牲。これはギリシャ神話での表現ですが、言い換えれば超越です。自身の与えられた環境やミッションがいつしか精神の成長へと繋がっていく。意識せずとも。ストーリーテリングはそれを見せられるかどうか?にかかってくるわけです。

昔、名作タクシードライバーの脚本家ポールシュレイダーの講義をシドニーで受けたことがあるのですが、まさに物語こそ全て!な訳です。

そういった意味で本プロジェクトでは割とその点で粘ることができました。というかそういう状況を許容してくださいました。様々な議論を惜しみなく時間を費やしてくれたプロダクションおよび内閣府の関係各位には本当に感謝しかない。

それぞれの立場から見える景色は確かに違う。それでも伝えるべきオーディエンスは目の前にいる。とてもデリケートなプロセスだったことは間違いありません。復興というのはそもそもなんなのか?そういうところまで突き詰めて皆さんとお話ができたことが、動画制作の一つの醍醐味と言いますか、普通に仕事をしていてここまでこだわるか?という極限まで思考を巡らせる。とても貴重な体験となりました。芸術はアートと英語に訳してはたしていいのか?文化をカルチャーにすることで日本語の文化がもつニュアンスが消えてしまわないか?これは誰に何を発信していくのか?を考える時にとても重要になってくる。その中で当然、”現場の声” を拾い上げていくということになっていく。ワンセンテンスに込められる想い。それが的確であるか?言葉が一人歩きしてはいないか?

そんなプリプロでのやり取りは現場でも続く。これだから動画制作はやめられない・・・と改めて感じたプロジェクトでした。

撮影監督は以前から仕事をしたかった有能な若手、ジョン・ドニーカ。ドキュメントでありながら映画的表現に長けている彼に詩的な表現をお願いした。撮影監督を操る、というと聞こえが悪いが、共同作業は一筋縄ではいかない部分もある。本人の持つビジョン、そしてそれは感性からくるものであるから、ロジカルな解説をしても演出家の思う通りには必ずしもならない。その余白を楽しめれば勝ち。そう思っている。

次はどんなプロジェクトなのか、楽しみです。

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